最高裁判所第一小法廷 昭和33年(あ)1512号 決定 1959年6月04日
主文
本件上告を棄却する。
理由
被告人南善次郎を除くその余の被告会社および被告人ら四名の弁護人神垣秀六の上告趣意第一点について。
所論は事実誤認、単なる訴訟法違反の主張であって、刑訴四〇五条の上告理由にあたらない。
同第二点について。
所論は単なる法令違反の主張であって、同四〇五条の上告理由に当らない。〔鉱山保安法七条一項にいう「使用し」の趣旨は、使用させよって使用されるに至った場合をも含むものであるとした第一審の判断を是認した原判示は正当である。また同法七条一項は、鉱業権者に対する義務を定めた規定であり、同法五六条二号に「第七条第一項……に違反した者」とあるのは、右義務に違反した鉱業権者を処罰する規定と解するを相当とするけれども、同法五八条には、「……その他の従業者が、その法人又は人の業務に関し、前三条の違反行為をしたときは、行為者を罰する外」と定められており、同法に定められた鉱山事業における危害防止、安全確保の重要性に鑑み、同条所定の従業者が、法人又は人の業務に関し、同法五六条二号に掲げられた違反行為(本件においては、七条一項に違反する行為)に該当する所為をした場合には、右五八条の前記引用の規定によって、行為者たる従業者が処罰せられることとなり、従業者は右規定によって、五六条二号に掲げられた違反行為(本件においては、七条一項に違反する行為)に該当する行為を、してはならない義務を負うものとせられていると解すべきである。そして本件においては、検定有効期間最終日を経過して無検定のままの精密可燃性ガス検定器を坑内で現実に用いた者が、所論のように、被告人ら自身ではなく鉱山労働者であったとしても、被告人らが、右鉱山労働者をして前記のごとき検定器を坑内において用いさせてこれを使用したものであると認定した第一審判決を是認した原判決は、挙示の証拠に照らし正当と認められる。しからば、被告人らは、結局鉱山保安法七条一項の違反行為に該当する所為をしたものであるから、同法五八条の前記引用の規定によってこれを処罰しうることは明らかであり、従って被告会社もまた右五八条によって処罰を免れないものといわなければならない。これと趣旨を同じくする原判決には所論の違法は認められない。〕
被告人南善次郎の弁護人佐伯静治の上告趣意第一について。
所論引用の判例は、いわゆる事業主の可罰性につき判示しているに止まり、実行者または従業者の可罰性についてまで言及していないのであって、本件に適切でない。それ故、所論判例違反の主張は前提を欠き採るを得ない。
同第二について。
所論は違憲をいうが、その実質は単なる法令違反の主張に帰し、刑訴四〇五条の上告理由に当らない。(なお、所論の採るを得ないことは、前記神垣弁護人の上告趣意第二点に対する説示のとおりである。)
被告人南善次郎の弁護人林信一の上告趣意第一点について。
所論引用の判例は、本件とは根拠法律を異にし、事案も同一に論ずることを得ないものであって、本件には適切でない。それ故、所論判例違反の主張は前提を欠き採るを得ない。
同第二点について。
所論は単なる法令違反の主張であって、刑訴四〇五条の上告理由に当らない。(なお、所論の採るを得ないことは、前記神垣弁護人の上告趣意第二点に対する説示のとおりである。)
よって同四一四条、三八六条一項三号により裁判官全員一致の意見で主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官 入江俊郎 裁判官 斎藤悠輔 裁判官 下飯坂潤夫 裁判官 高木常七)